金柑のパウンドケーキを焼く

冷蔵庫の主となりつつある、自家製金柑の甘露煮(コンポート)。これを消費すべく、パウンドケーキを焼いた。金柑と紅茶、実はちょっとしたつながりがあるのだ。

生まれも育ちも現住所も横浜の私が思うに、この辺りで金柑はあまりメジャーな果物ではない。そのあたり客観的に示せる資料があれば…と思い都道府県別の消費量統計がないか調べてみたけれど見つからなかった。代わりに生産量別データを総務省サイトから借用し視覚化したのが下のグラフ。

引用元:政府統計の総合窓口【e-Stat】特産果樹生産出荷実績調査:2-2 種類別栽培状況(都道府県):1)かんきつ類の果樹(2017年2月27日公表)

生産地=消費地とは一概には言えないけれど、九州では(横浜よりは)一般的な果物なのかもしれない。私に「金柑おやつによく食べた」と教えてくれた人は福岡の出身だったっけ。そして鹿児島県のお節料理には金柑の甘露煮が入っているらしいということを、南薩日乗さんのブログで知った。栗きんとんの代わり、ということなのだろうか。

そしてこの金柑、実は紅茶と因縁が深い果物の一つである。

そして、とくにある発見が彼に不朽の名声をもたらすことになる。キンカンだ。キンカン属はFortunellaと命名され、彼の名前がつけられた。
引用元:サラ・ローズ「紅茶スパイ - 英国人プラントハンター中国をゆく」(原書房)

19世紀、斜陽の東インド会社が再起を賭けて挑んだのは、植民地インドにおける紅茶の栽培だった。当時の英国では紅茶が爆発的人気となっていたものの、その全ては中国からの輸入に頼っていた。何とか自国領土内で紅茶を作りたい。それは英国の悲願だったが、紅茶(ボヒー茶)の製法は、200年もの長きにわたって中国の国家秘密となっていた。これを盗み出すべく中国に派遣されたのが、スコットランドの園芸家ロバート・フォーチュン。彼は大本命のお茶の他にも、様々な未知の植物をヨーロッパに持ち込んだ。その一つが金柑なのである。

手元にある植物ラテン語事典を引いてみる。確かに記載があった。

【fortunei】for-TOO-nee-eye スコットランドの植物ハンターで園芸家ロバート・フォーチュン(1812-80)への献名。
引用元:ロレイン・ハリソン「ビジュアル版 植物ラテン語事典」(原書房)

中国から見れば「盗人猛々しい」というところ…。環境問題における先進国と途上国の対立構造を思い起こさずにいられない。

人力で作る、金柑のパウンドケーキ

今回もシュガーバッター法で生地作り。しかし人力(ハンドミキサーを使わない)なので、バターに合わせる前に予め卵は共立てしておく。カトルカールなので、バター、お砂糖、薄力粉、卵(殻込み)の重量はすべて同じ。これに自家製金柑甘露煮を刻んだものを、他材料重量の7割程度程度加える。焼き上がった熱いところに、甘露煮のシロップとコアントローを混ぜたものを塗る(小嶋ルミさん風に言うならば、シロップを「打つ」)。焼き上がり当日よりも、一晩おいた方が生地が落ち着きおいしく食べられるように思う。

限界まで金柑を詰め込む

金柑のパウンドケーキに合う紅茶

基本、どんな紅茶にもよく合う。おすすめはストロングミルクティ。金柑の原産地に敬意を表して、煙たい香りのエキゾチックビューティ・キームンを合わせるのも素敵。紅茶に金柑甘露煮のシロップをひとたらししてみても。

ロバート・フォーチュン、金柑の学名にその名を残す男の話

紅茶スパイ - 英国人プラントハンター中国をゆく


サラ・ローズ:著
築地誠子:訳
株式会社原書房
2011年刊

中国が200年の間守り続けてきたお茶の秘密を盗み出した英国人、ロバート・フォーチュンに焦点を当てた1冊。フォーチュンはチャールズ・ダーウィンと同世代人であり、ウェッジウッドの息子、ジョン・ウェッジウッドによって設立されたロンドン園芸協会で働いた。ウェッジウッド家と紅茶はそんな関係(関係あるようなないような)。

本書について詳しくは「 紅茶スパイ 」(サラ・ローズ著)の書評頁をどうぞ。

植物のラテン語名を確認するとき私が最初に当たる本

ヴィジュアル版 植物ラテン語事典


ロレイン・ハリソン:著
上原ゆうこ:訳
株式会社原書房
2014年刊
簡単な辞書なのだけれど、ビジュアルが豊富で眺めているだけでも楽しい。