図書館で見つけた、ちょっと面白そうな本「紅茶スパイ」。紅茶=英国+スパイ…ってもしやコードネームは007?
お茶(学名:Camellia Sinencis)の原産地は、現在の中国西南部或いはヒマラヤあたりに比定されている。17世紀、オランダ人がヨーロッパに持ち込んだお茶は彼の地で少しずつ受け入れられていき、18世紀に入ると代わって英国東インド会社が対中国とのお茶取引の表舞台に躍り出た。英国で好まれたのは最初に緑茶、18世紀後半に入ると武夷茶(烏龍茶の下級品。醗酵茶)。しかし当時の中国はお茶の製造法を公開せず、英国は消費するお茶の全てを中国からの輸入に頼らねばならなかった。
英国は植民地インドで生産したアヘンを中国に売りつけ、逆に中国からはお茶を買っていた(英国からインドへ綿製品を輸出、を加えると世界史で習う『三角貿易』になる)。ところが件のアヘン戦争の勃発で、この関係は崩壊危機にあった。しかし英国のために何を差し置いてもお茶は確保されなくてはならぬ。自国領土内での紅茶生産は、英国の悲願だった。
そこで登場するのが本書の主人公、ロバート・フォーチュン。スコットランド出身の園芸家である彼は、斜陽の東インド会社のためにある仕事を請け負った。それが「お茶の木の中国からの盗み出し」である。彼は中国人上級官吏に変装し、お茶の木を求めヨーロッパ人未踏の中国内陸部へ分け入っていく。当時最新の技術である『ウォードの箱』(持ち運び可能な小型温室)を携えて。
本書「紅茶スパイ」はこのあたりの背景から入り、フォーチュンの中国内陸部への旅の様子などが細かく描かれている。冒険活劇のような描かれ方ではあるけれど、そこで繰り広げられていたのは、どう美文化しても単なる盗み出し(お茶の木だけでなく、お茶製造職人まで引き抜いてインドに連れていく。これは立派な産業スパイ)の光景。加えて本書はフォーチュン本人の著作や手紙、東インド会社の報告書等に加え膨大な資料に当たって著わされているそうだが、どうも白人の傲慢さが随所で鼻をつく。そうしたことが理由で、正直物語に入り込めない自分を感じた。
215ページ10行目に誤植があることも指摘しておく(初版本で確認)。
ロバート・フォーチュン、中国からお茶を盗んだ男の話
紅茶スパイ - 英国人プラントハンター中国をゆく
- プロローグ
- 第1章 一八四五年 中国の閩江
- 第2章 一八四八年一月十二日 イギリス東インド会社本社
- 第3章 一八四八年五月七日 ロンドン、チェルシー薬草園
- 第4章 一八四八年九月 上海から杭州へ
- 第5章 一八四八年十月 杭州寄りの浙江省
- 第6章 一八四八年十月 長江の緑茶工場
- 第7章 一八四八年十一月 安徽省にあるワンの実家
- 第8章 一八四九年一月 上海
- 第9章 一八四九年三月 カルカッタ植物園
- 第10章 一八四九年六月 インド北西州サハランプル植物園
- 第11章 一八四九年五月~六月 寧波から武夷山脈へ―――大いなる茶の道
- 第12章 一八四九年七月 武夷山脈
- 第13章 一八四九年九月 福建省浦城
- 第14章 一八四九年秋 上海
- 第15章 一八五一年二月 上海
- 第16章 一八五一年五月 ヒマラヤ山麓
- 第17章 一八五二年 ロンドン、王立造兵廠
- 第18章 ヴィクトリア時代の人々にとっての紅茶
- 第19章 フォーチュン余話
- 謝辞
- 参考文献
- 訳者あとがき