「デザートはあなた」森瑤子

大学生の頃読んで、その一節が何となく頭に残っている1冊。


ミルクティーは、濃くタップリで熱々を、俊介は先にカップにミルクを入れておいて、泡立てるように上の方から紅茶を注ぎ入れる。香りがたってくるので、お試しを。 「デザートはあなた」森瑤子

広告代理店に勤める料理上手の独身貴族・大西俊介と、彼を取り巻く女たちの短篇小説連作集。私が学生時代に読んだ時点で既に「何とバブリーな」と慄いたのだけれどそれもそのはず、本書の単行本が刊行されたのは1991年2月。つまり、日本のバブル景気の終焉時に重なるのだ。本書を読まれる際は、そのあたりを念頭に置かれたし。

そして本書の一篇「雨降りかけて地固まるの巻」の最後に出てくるのが、上の紅茶の淹れ方指南である。私は先にお茶を淹れてから牛乳を足していく派であり、且つお茶を泡出てるような高さからカップにお茶を注ぐこともしない。私はドラマそのものは見たことがないのだけれど、「相棒」で水谷豊演じる杉本右京の紅茶の淹れ方がこれに当たる(牛乳については知らない)。

このあたり、お作法としての正解がある訳でもない。紅茶の淹れ方にも、それぞれ個性があって面白く思う。

森瑤子の著作は、思い出せる限りこの1冊しか読んだことがない。作品よりも作家本人の存在感が大きいという珍しい人。1990年代の初めにまだ50そこそこで亡くなった際、安藤和津が泣きながらインタビューに答えていた映像とセットで思い出す。ひとの記憶って不思議。

紅茶の淹れ方は杉本右京風

デザートはあなた


森瑤子
角川書店(角川文庫)
平成5(1993)年刊
所謂「トレンディドラマ」の小説版、といった趣。読むと紅茶というより珈琲が飲みたくなる(ネスカフェゴールドブレンドのCMをいやでも思い出す)。今日初めて知ったけれど、実際1993年にTBS系列でTVドラマ化もされたらしい。